新・伊野孝行のブログ

2021.7.6

「今野書店」日記

6月◯日
今日から週2回のペースで今野書店のレジ横に座ることにした。誰も来なくて心が折れたら帰ろう。
前回のフェアをやっていた柏書房の竹田純さんは週4~5のペースで座っていたという。「座ってると売れるんですよ」その言葉をぼくも信じて…。
「ガムテープの一休さん」を不思議そうに眺める若者がいたので思いきって話しかけてみる。この春、一年生になったばかりの学生さん(医学部)。地方から出てきて西荻に住んでいる。彼はぼくのことは知らなかったが「一休さんがどれくらい自由な人かっていうと、自分のチンポで米をついたくらい自由なんだよ」「じゃあ買ってみます」とお買い上げ。嬉しい。次に来たのは「Twitterの告知を見て」と駆けつけてくれた赤いTシャツの男性。駆けつけてくれたと勝手に思っているのは男性が汗を大量にかいていたから。美しい汗だ。
仕事帰りのお客さんで賑わってきました。レジ横にいる私を不思議そうに眺めたり…心は折れてません。むしろ楽しいです。

6月◯日
「今野書店なう」来店すると同時にツイートする。ツイートには寂しげに座っている写真をつける。「泣き落とし」効果を期待してのことだ。このツイートを見てパンを差し入れに持ってきてくれたお客さんがいた。「心折れてませんか?頑張ってください」と励まされた。泣き落とし作戦が効きすぎたか。すみません。でもいい気になっていると、パタリと誰も来なくなる。
ぼくの選書「一休的…あまりに一休的な…10冊‼︎」の仏教関係の本を手に取って見ているお客さんがいた。話してみると、なんとこのあと「禅問答」に行くと言う。西荻で禅問答をやってるところがあるとか!禅問答ってお坊さんしか体験出来ないものかと思っていた。さすが風狂タウン!
面白くてつい閉店までいてしまった。次回は土曜日の16時からいます。ザイチィエン!

6月◯日
今野書店で久生十蘭を3冊買う。アウトレットの棚にあった本なので半額くらいになっててお得。もう10年以上前か、最初『従軍日記』を読んで、あとで小説を読んだらめちゃおもしろくてマイッタ。当時久生十蘭の小説はほとんど本屋さんになかったような記憶。その後何冊も出たようだけど、こっちが忘れてた。それを思い出して買った。
そういえば今日は中里介山『大菩薩峠』で検索していて、なぜかぼくを知って、来て下った女性がいた。本はどこかで誰かをつないでいる。

6月◯日
普通サイン会は講演会やトークショーの後にやる。ぼくがやっているのは、ひたすら来る人を待つ蟻地獄タイプのサイン会だ。
「恥ずかしくないですか?」と親しみをこめて、今野書店のレジ横にただ座ってる私に問うたお客さんがいた。「恥ずかしいっすよ、そりゃ」と答えたが、実はそんなに恥ずかしくない。
今野書店以外なら恥ずかしい。今野書店だと恥ずかしくない。なんだろう…この見守られている放し飼い感。

6月◯日
朝乃山、六場所出場停止って、そりゃないよ!野球賭博の時より重くない?
1年間本場所がなく稽古だけって、自分だったら堪えられるかな。モチベーション保てるかな。まわりのみんなはどう接すればいいの?あんまりだよ。ひどすぎるよ。他の社会じゃ許される事も相撲界は許されない。今まで逆だったじゃん。他の社会ではアウトなこともお相撲さんだからいいじゃんて。頭に髷をのっけてんだから。あそこだけは江戸時代じゃなかったのか。…こんな世の中、苦しいよ。昨日の朝乃山の処分を聞き、やはり我々の生きる世界は「あるべき正しさ」というマイルドな地獄に向かって進んでいることを確信した。
風狂僧一休宗純は今の世には生息できない。せめて自分の中の一休的要素を養い、こんな世の中でも楽しく乗り切ろう!
というわけで本日のリクエストサイン。
「キャバクラの一休さん〜朝乃山に捧ぐ〜」
朝乃山は別にそんなに悪いことしたわけじゃない。どこまでいじめりゃ気がすむのよ。世の中の方がよっぽどクレイジーだよ!

6月◯日
ついに今野書店今週のベストセラー第1位!になる(単行本部門)。
さっき「大徳寺真珠庵襖絵」仲間の山賀博之さん(元祖ガイナックス社長)が散歩のついでに寄ってくれ、「井の頭煎餅」を差し入れてくださった。
暇でレジの横に座って読書してる状態が続いている…。
毎回4時間くらい座っているが、思いの外、あっという間に時間が過ぎる。座っている日は平均して、5、6冊売れる。つまり5、6人の人が会いにきてくれる。今日来てくれたお客さんの中で、ぼくのよく聞いているラジオ番組のディレクターという方がいた。まさか「一休さん」特集?ま、期待せずに、期待せずに…。

6月◯日
数えで50歳なんだけど、50歳になったらやりたかったことがあった。それは眼鏡(ド近眼&乱視)のレンズに色を入れること。殿山泰司、野坂昭如、山城新伍、山根貞男、長沢節…眼鏡に色を入れるのは男の成人式なのである。さっき白山眼鏡に取りに行ってきた。さあ、今日も誰か来てくれるだろうか。
わざわざ会いに来てくれるお客さんとの出会いは例外なく面白い。個展の時とは違う。なぜだろう。やっぱりここが本屋さんだからかな。
ぼくのお客さんがいない時だって、お店の様子を眺めているだけで楽しい。仕事柄、書店は近しい存在だけど、書店員さんの仕事ひとつとっても知らないことが多い。古書店で店の個性を作るのと違い、新刊書店で店の個性を作るにはいくつもの工夫がいると思う。
今野書店のレジ横に座っていると「出版不況ってどこの国の話?」と思えるほど活気に溢れている。何冊も本を抱えたお客さんがレジに並んでいる。タイトルも著者名もうろ覚えのお客さんと、わずかなキーワードから書籍を探していく書店員さん。万引き犯の大捕物。
「ドキュメント72時間at今野書店」を体感している。レジ横に座っているぼくも「面白い本屋さん」の工夫のひとつだと考えれば、なんだか誇らしい。

6月◯日
「表現の不自由展」より「ネトウヨの反日展」と「パヨクの日本スゴイ展」の同時開催を見てみたい。逆説的表現が出来なければ表現者とは言えん…などとぼんやり思いながら今日もレジ横に座っている。今野書店なう。
ヒマなので、清水克行先生用の軍旗を工作している。「ヤァヤァ遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!」だ。ウム、清水さんのコーナーいい感じに仕上がった。
来る26日は『室町は今日もハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界』(ぼくはカバーや挿絵を描いている)を出されたばかりの清水克行先生がわたしのとなりに座ってWサイン会をしてくれる。「となりの一休さんスピンフオフ企画」である。
某テレビ局のディレクターさん(西荻在住で今野書店の常連さんらしい)から取材の申し込みあり。


6月◯日
知性、容貌、人間性、読者数、筆力、人気、他すべての点で自分より優れた清水克行先生だが、唯一同い年という点で並ぶことができる。今日は清水さんがぼくのとなりに座って二人でサイン会をする日。ゼミの生徒さんが立て続けに来る。地元の同級生が立て続けにくる。清水さんのファンが立て続けにくる。清水さんがサイン会をしていると知らずにお店に入ってきて、驚いているゼミのOGがいた。盛況だ。


6月◯日
今週のベストセラー第1位は矢部太郎『ぼくのお父さん』2位『となりの一休さん』3位『室町は今日もハードボイルド』。3週連続1位ならず。『ぼくのお父さん』に一気に抜かれる。猛烈に追い上げる室町!

6月◯日
開店の1時間30分前に今野書店に集合。某テレビ局の取材。本を紹介するミニコーナーで、3分くらい?の出番らしい。撮影中、今野書店のみなさんが音を立てないように仕事をしてくれる。すみません。そ〜っと本を袋から出したりしている様子を見ていると、音を出したら負けのゲームをやっているようでおかしいやら申し訳ないやら。
さて、今日でフェアもほぼほぼ終わりだ。
『10代のための読書地図』(本の雑誌編集部 編)を買って帰る。この本の中でも、『となりの一休さん』が紹介されています。紹介者は花本さん。そう今野書店のフェアを企画してくれた花本さん。はい、当分の間感謝し続けます。
「大岩食堂」にて一人おつかれさま会をする。


6月◯日
搬出に行く。「となりの一休さん」フェア撤収〜。 
今野書店に礼!
お客さまに礼!
ありがっとございましたっ!
サイズ間違えたデカいベニヤ板の壁は次回以降のフェアでも使ってくださるということで、寄贈させてもらいました。
レガシーを残して私は西荻を後にした。