新・伊野孝行のブログ

タグ:ドラマ

2020.7.7

にがおえ東京恋物語

似顔絵の苦労は絵の苦労とは本質的に別のところにある。
しかし、似ている似ていない問題は絵よりも前面に出てきちゃう。
時間をおいて自作を見つめ直すことは、何事にも必要なことだが、似ていると思って筆をおいたはずなのに、時間を置いて見ると全然似ていなかったりする。漢字をじっと見ているとゲシュタルト崩壊が起きるように、似顔絵も細部に渡って検討、点検している間に、全体が発する顔のイメージを捉えきれなくなっている。
自分の錯覚を自覚する。修正を加えた似顔絵の判断もまた錯覚の中にあるかもしれない。
似顔絵の修正作業に絵を描く喜びは見つけられない。

『BRUTUS』から恋愛ドラマの登場人物の似顔絵を頼まれた。
似顔絵の中で最も難易度が高いのが、若い美男美女であることは言うまでもない。
美男美女の整った顔のバランスは、みんな同じだ。
どうして人の脳は整ったバランスの顔に美を感じるようになっているのだろう。
そして時間をかけて人の顔を作っていくのも脳である。知性や人生経験を加えた顔は、たとえ出発の時点でハンデがあっても、唯一無二の美を作り出す。造形物としての美と言っていい。我々の脳はそこにもまた美を感じるように出来ている。

生まれついて与えられた美のおかげで、または美のせいで、人生の軌跡は大きく振れる。幼少時からモテる人は、モテること自体が災いであると告白するかもしれない。
ここに描いた美男美女の俳優たちは、麗しい顔に生まれたことを幸いと思っているだろうか、災いと思っているだろうか。
そんなことはだいぶ時間が経った後に本人に聞かないとわからな〜い。
少なくとも私には地獄である。
若い美男美女の似顔絵をたくさん描くのは災いなのだ。

『東京ラブストーリー』
この頃の鈴木保奈美を画像検索して、そのかわいさに撃ち抜かれた。知性や人生経験を加えなくても生のままの造形で心を射抜けるのは猫のようだ。1991年のドラマだというが、ほとんど見ていない。私が20歳の時だ。でも、なんとなくの人間関係と名セリフは知っている。ネット上には解像度の高い画像がなかった。似顔絵というのは特徴を強調して似させる手もあるが、やりすぎるとアゴ女と鼻の穴デカ夫になってしまう。

『問題のあるレストラン』
真木よう子はすんなり描けたが、東出昌大が最初死ぬほど似なかった。発狂しそうになった。原画(水彩)をパソコンに取り込んだ後、ネット上にある写真を真横に置いて、フォトショップのブラシで加筆した。なんとか東出くんになったか???ここで時間を割きすぎるわけにはいかない。まだたくさん描かねばならんのだ。このドラマも未見。

『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』
高良健吾は美男だが特徴のある顔をしている。有村架純が難しい。顔の各パーツは優品だが特徴があるわけではない。結果、やっぱり似ていない。掲載サイズも大きくないし、ま、この辺で勘弁してくださいませ。担当編集者のSさんは有村架純が好きだという。こういう一言が、有村架純は似させなければ!とプレッシャーになる。似なくてゴメン。このドラマも未見。

『逃げるは恥だが役に立つ』
有村架純以上に、新垣結衣の顔にはクセがない。星野源は横顔で星野源とわからせなければいけない。また全身描くので顔を細かく描いても仕方がない。なんとなくの雰囲気で説得させるしかない。あなたは説得されましたか?このドラマも未見。

『獣になれない私たち』
またもや難敵、新垣結衣である。松田龍平は易し。しかし、かなり解像度の高い画像があったので、トレースすることができた。前回のブログで、顔変換アプリで自分の顔を女性化したが、顔の要素はほとんど同じなのに、私は完全にかわゆい女性になっていた。このことからも単にトレースをすれば似るというわけではないことをご理解いただけると思う。とは言っても、トレースできるとかなり楽である。このドラマも未見。

『恋はつづくよどこまでも』
佐藤健と上白石萌音。これまた解像度の低い資料しかない。東出昌大と同じく、原画をパソコンに取り込んだ後、写真を真横に配置して、フォトショップのブラシで加筆。まあまあ佐藤健は合格点かな。このドラマも未見。

『東京ラブストーリー2020』
話題のリバイバルドラマ。鈴木保奈美が石橋静河で、織田裕二が伊藤健太郎である。石橋静河は石橋凌の娘さん。朝ドラ『半分、青い。』では佐藤健の奥さんを演じていた。暗くて性格の悪い役だった。伊藤健太郎も朝ドラ『スカーレット』で白血病で若死にする息子をやっていた。朝ドラ率高し。解像度の高い画像があったので、そのままトレース。失敗もなくうまくいった。もちろんドラマは未見だ。

結果として言えるのは、解像度の高い写真があれば似させやすい。でも絵の面白さとは関係ない。写真を使わず描いた方が絵の領域が広いのである。絵と写真がせめぎあい波立つ場所に、似顔絵道を探るのだ。あと、どのドラマも見てなかった。イラストレーターとしてどうなんだ。

アーティストにはなれないかもしれないがイラストレーターならなれそうだ。自分もそう思って始めた。しかしイラストレーターも甘くはない。似顔絵を描いて終わりじゃない。背景も題字も描かねばならん。こんなことならアーティストになるんだった。
私に若い美男美女の似顔絵は頼むんじゃないぞ、絶対だからな。絶対頼むなよ〜。
わーはっはははは!さらばじゃ!