伊野孝行のブログ

文庫本二冊

発売ホヤホヤ中の文庫のカバー仕事より。

ひとつ目は新潮文庫。久坂部羊さんが自分の青春時代を書いた『ブラック・ジャックは遠かった 阪大医学生ふらふら青春記』のカバー。ぶらっくじゃっく大阪大学医学部は手塚治虫の母校であり、山﨑豊子の「白い巨塔」の舞台となったところである。帯には〈そこはアホな医学生の「青い巨塔」だった〉と書いてある。カバーデザインは新潮社装幀室の二宮由希子さん。

医学生の話なので、タイトルが包帯の上にのっている。この即物的アイデアもうまく効いている。こういう合成はパソコンを使えば簡単なことかもしれないが、二宮さんはわたしの絵をプリントアウトして、厚紙に貼り、実際に包帯を巻いて、スキャンしたそうである。だから、包帯から絵の色が透けている。アナログ手法で合成したから、なんとなく可愛さがでている、と思う。包帯絵の内容に関しては、打合わせの段階でほぼ用意されていたので、それに従って描いた。つまり、たいして頭を使わなくて済んだ。

お次ぎにお見せするのは、光文社文庫、井上ひさしさんの『戯作者銘々伝』。以前はちくま文庫から出ていたのが、光文社から装いも新たに出ました。カバーデザインは高林昭太さん。

げさくしゃめいめいでんこの本には12人の戯作者の話が入っている。鼻山人、式亭三馬、恋川春町、山東京伝……。山東京伝は知っている。他には名前を聞いたことがある人が数名で、あとはぜんぜん知らなかった。わたしは平成の戯作者になろうとする身なのに、この程度の教養しかないことを恥じます。

いくつかアイデアを考えて、最終的に4つにまで絞ってお見せしたところ、この形が選ばれた。元ネタは山東京伝が案のこの絵。sk1107c1円の中の人物を井上ひさしさんに変えただけなので、結果的にこっちもたいして頭を使っていない……。井上ひさしさんといえば、似顔絵描きからすると、顔の全部に特徴がある、非常に描きやすい顔だけど、もっとも特徴のある下半分は隠れてしまう。でも顔の上に著者名が入っているので大丈夫だぁ。