伊野孝行のブログ

わたしと街の物語(終)

あー、展示が終わった、終わった!来てくださった方、ほんとうにどうもありがとうございました!!
人形町は江戸の中心地だけど、イラストレーションのギャラリーが点在している青山界隈(江戸の田舎)からはちょっと離れている。
気合いをいれて見に行こうと思わなければ、行きにくいところかな?だから余計に来て下さった人には心から感謝しております。おかげで冊子も完売しました。便利なネットの世の中だから、展覧会も、昔とはやる意味合いがちがうと思っています。単なるプレゼンの場ではないし。イラストレーションの仕事は自分からはじまることはない。でも展覧会ならゼロから自分ではじめられるのが楽しいところ。

綺麗なフォームで跳べるハードルなんて用意しても意味はない。跳べるか跳べないか危うい高さに設定すると面白いと思う。たとえ着地に失敗しても、そこは成功と大差ない地点になっているはずだ。すべてはテーマの決め方による。テーマは「お題」とはちがうな。モチーフを探しにいかないと。自分にむかって外からやってくるものに対して、自分の中からも盛上がってくるものが出てくる。ぶつかりあって作品が生まれるように仕向けてくれるもの、それがいいテーマだと私は思う。
自分のことは自分がいちばんわかっているつもりでいるから、逆に意外なテーマはみつけられなかったりする。実際、今回のテーマは自ら進んでやろうとは思わなかったもの。

ここのギャラリーでイラストレーターの展示を企画しているKさんに話を持ちかけられたとき、19年間バイトしていた街の話なんて、文章にはしてみたいと思ったけど、絵にしようなんて思わなかった。神保町の話なのに人形町でやるなんてややこしい、なんて最初はゴネてた。
でも、やって良かった。
意識しないでも人は街とともに生きていることが判明した。

とってもパーソナルなことばかりで、どれだけ人に伝えられるか苦心したけど、考えてみれば表現や芸術というのは、それが基本だと改めて思いました。ロンドンを描いた大河原健太君も、この展示のために絵がガラッと変わった。変わらざるをえなかった。それはテーマをこなすために。それがイラストレーターである。いつもの手慣れた手法を捨てて、愚直とも思える描写で、一年半いたロンドンの街や人を描いてくれました。
とてもカワイイ絵ばかり。感じが伝わる。こういう絵ははじめて描いたって言ってたから、そりゃヘタッピなところもあるけど、ヘタな絵はいつも気持ちと共にあるのです。技術は気持ちを伝えるためにあるべきで、ウブな気持ちをわすれた技術は空虚だろう。

技術なんてものは工夫してるとすぐに身につくものである…とヘタを装うテクニシャンのわたしは思うが…。大河原君にもこの展示が意味のあることになってもらわないと、引きずり込んだ私は寝覚めがわるい。今回も昔のバイト仲間が見に来てくれた。みんな絵に興味があるわけではないから、これまでの展示はちゃんとおもしろがってくれたのか心もとないが、今回はみんなが最も共感できる内容のはずだ。たとえバイトであっても仕事は楽しいにこしたことはなく、彼らがいたことで僕も楽しかったから、ちょとした恩返しができたことが、オマケとして良かった。

見慣れた街の風景を自分のアングルで描いたら、そこで過去にすでに会っていた人と、もういちど再会するような出来事もあった。それはまたお話する機会があれば。
おわり。