伊野孝行のブログ

FILE2011

玄光社から発売中のMOOK『illustrationFILE2011』上巻の表紙を描かせていただきました。(普段は、描かせていただきました、という言葉遣いはへりくだりすぎていると思うので使いませんが、今回に限って使わせていただきます。なにせ上巻だけで448人、下巻と合わせると935人ものイラストレーターの方々がひかえておられるので、私ごときが表紙を描いちゃってすいません!という気持ちがありますので…)今年の表紙のテーマは「好きな小説」で、あとがきの「表紙の言葉」ではこう書きました。

『最初、高校2年の時に読んで感動したドストエフスキーの「罪と罰」でラフを描いてみた。何枚描いても当然暗い。さすがに表紙が殺人シーンではまずいかな?しかしそれ以外の場面は会話ばかりで何の小説かわかりにくい。夏目漱石も候補に上げていた。「坊っちゃん」は二回読んだことがある。登場人物それぞれの個性をうまく際立たせられるか不安だ。絵になりそうな場面が多すぎてかえって絞りきれない。なら「我輩は猫である」は?苦沙弥先生=漱石なので、漱石が描ける。漱石は何度描いても楽しい。作家本人を描けば物語の中にも自然に入って行けそうだ。好きな小説を描くというのも、なかなかむつかしい。』

アートディレクションは日頃何くれとなくお世話になっている日下潤一さん(B-GRAPFIX)ですが、決して「八百長」で私が表紙を描くことになったわけではありません。片桐淳一編集長が昨年、うだるような猛暑の中、HBギャラリーでやった丹下京子さんとの二人展『鍵』(谷崎潤一郎原作)を見て、たいそうおもしろがってくれたのがきっかけで、今年のファイルの表紙を頼まれたのでした。そう、だから下巻は丹下さんが描いてます。ちょうど「あ行」と「た行」で二人はうまい具合に上下巻に別れます。

丹下京子さんの選んだ小説はポーの『モルグ街の殺人』。小説といっても色々ありますので、若い時に読んでおもしろかった「近代文学」に絞ろう、ということになりました。二人の作品がそろったところでとても面白い偶然が起こりました。どちらの絵も動物が登場する。その動物が中心にいてコチラを振り返っている。しかも遠景には人が数人いる。…不思議な偶然です。(これも八百長は一切やってません)ただ絵の作り方は、対照的。デザインは上下巻共通なので先に決まっていました。私は四角が集まったようなちんまりした構図で、丹下さんは赤い色面が斜めに切り裂いています。あいかわらず「男らしい」です、丹下さん。

前は、色を塗る時わざとはみ出して塗らないと気が済まなかったし、ピンクや黄色を多様しないと自分らしさが出ないと思っていましたが、最近はそんなことしなくても自分らしさはなくならないと、やっと気付いたので結構フツウに描いちゃてます。