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伊野孝行のブログ

引越し侍/情斬りの辻

双葉文庫の書き下ろし時代小説、七海壮太郎さんの「引越し侍 内藤三左」の第三巻「情斬りの辻」のカバーを描きました。夜の雨のシーンがあったので、カバーの絵にしようと思いました。ずっと前から、夜の雨の絵を描くのなら、小林清親の「九段坂五月夜」のような感じで描けたらいいな〜という願望がありました。なので試してみた次第です。下にあるのが小林清親「九段坂五月夜」です。「光線画」と呼ばれる小林清親の浮世絵は、当時の人はどのような感想を持ったのでしょうか。光と影によって描き出される絵はそれまでにはない斬新なものであったはず。それでいて郷愁にあふれている。この郷愁というのは当時の人も感じたものなのだろうか。今の時代の僕などからすれば「あぁ、これぞ日本の風景」と思い、光線画を見ながらかつてあったお江戸(正確に言うと絵は明治時代だが)のことを想像するときほど楽しいことはありません。旧幕時代の名残をしのぶ岡本綺堂の随筆の表紙などにはピッタリきます。

清親の絵はそれまでの浮世絵が持っていたデフォルメも様式美もやめていて、西洋の感覚も入っているわけで、その点でいうと歌川広重の「名所江戸百景」の方がモロにお江戸なわけですが、それを見ても僕の心からは江戸時代にたいする郷愁はとくに出てこないのです。ということはやっぱり小林清親はすでに郷愁をこめて描いているちゅーことですね。