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伊野孝行のブログ

港の中から誰かが呼んだ?

小学5年生の時、公文(くもん)の帰り道、自転車で港を走っていた。…ところまでは記憶にあるが、気がついたら溺れていた。

全く不思議である。落ちた記憶はないのに気がつけば海の中だった。溺れている間に記憶が消えてしまったのかもしれない。

当時はまだ泳げなかった。港の岸壁にはフジツボがびっしりついていたがそこに手をかけることも不可能だった。海の中から見上げる空には月が出ていた。溺れている時、むやみやたらに手足を動かし呼吸するのに必死だったが、頭の方は他のことを考える余裕があった。この月が見納めの景色だとか、友達の顔などが走馬灯のように順番に出てきたリだとか…短い人生だとは思わなかった。どれくらい時間がたったかわからないが、空に人影が現れて、長い竹竿をさしのべてくれた。この見ず知らずのオジさんがいなかったら、翌朝水死体で発見されていただろう。夜釣りをしていたオジさんは溺れる音を聞きつけてくれた。そこらへんに置いてあった海苔の養殖用の太い竹竿につかまらせようと機転をきかせてくれたのである。(顔がちょっと水木しげる先生風になってしまったが…)竹竿につかまり、何度もずり落ちたが、なんとかよじのぼって、助かったのであった。めでたし、めでたし。その晩は死の恐怖で泣きどおし、しばらく港にも近寄れなかった。翌日、こっそりと親父が自転車を引き上げに行った。ナイショにしていたのに「昨日誰かが溺れていた」という話は町に広がっていた。しかし、なぜ落ちたのかわからない。ぼんやりしていた子供だったので居眠り運転でもしてたのだろうか。おわり。