伊野孝行のブログ

偉人の言葉 座右の銘

今売っている「日経おとなのOFF」は「座右の銘」特集。偉人の名言コーナーで、ぬぁんと、77人の似顔絵を描きました。まあ、でも偉人の似顔絵というのは、アイドルとかの似顔絵にくらべればすごく楽。資料自体少ないし、顔が出来上がっている上に、ヒゲなんぞを生やしている場合が多いし、そもそもどんな顔だったかはっきりわからない人もいるし…。でもわたしがいつも理想としている似顔絵名人(和田誠さん、峰岸達さん、南伸坊さん、二宮由希子さん)が描くような、省略とセンスの良いデフォルマション(おっとフランス語)が効いたグラフフィックな感じのする似顔絵にしたかった…のだが今回も断念。制作時間が短かったという言い訳もあるが、まだまだ修行が足りぬということだろう。

はい、おつかれさまでした。あと「座右の銘とのつきあいかた」というコーナーでも描きました。

 

 

最近の美術時評/書評

「芸術新潮」で連載中の藤田一人さんの「わたし一人の美術時評」最近アップしてませんでしたが、もちろん毎月やってます。藤田さんの美術記者魂あふれるコラムに負けじと私もくだらない絵を描いてます。マツコ登場!この回は「広報の台頭と批評の衰退」というテーマで美術館の展覧会の広報活動にPR会社が入るようになって、雑誌などの美術記事がいいなりになっている、という問題。美術記事はたとえ情報記事のひとつであっても、広告ではない。代理店何様?編集者もしっかりしなさい!記者もそんな注文無視すべき!…という内容でしたのでマツコデラックスのような記者がいればいいのに…と。つづいての回は「美術団体再考」という内容でした。師弟関係、年功序列、中央集権的権威構造…日本美術界の諸悪の根源とされてきた美術団体が弱体化している。いつのまにやらアートシーンの片隅に追いやられてしまったのです。美術団体の問題点は自民党の派閥政治と重なる部分も多く、自民党が政権の座から転がり落ちたこととともに時代の変化はさけられない。しかしその後の政治とおなじく美術界も混迷をきわめている様子。あまりに市場原理が行き過ぎてせちがらくなると、古いと思われた体制にもそれなりに良い点もあった?…とも考えられます。ちょうどこの号の頃、小沢一郎の無罪判決がでて、ちょっと息をふきかえしてきたところだったので小沢一郎に登場ねがいました。息をふきかえしたら、さっそく政局混乱活動をしはじめました。これは最新号のコラムです。「現状追認の”賞”への不満」という内容。賞は貰う方より、あげる方の見識が問われる。すでに認められつつある作家、乗ってる仕事をしている作家に賞をあげているのが現状のようです。それは賞が現状の追認に傾くことで、現状を切り開くことにはなっていない。賞をあげるほうに先を見通す展望が欠如しているのでは?ということが詳しくかいてありますので是非「芸術新潮」を買って読みましょう!てなわけで、いっぱい賞をもらった若手作家がトロフィーをゴミ箱に捨てているの図でした。

はい、ここでおなじみの「画家の肖像」宣伝コーナー〜!7/4発売の「サンデー毎日」の書評で南伸坊さんにとりあげていただきました。……解説も書いていただいてますが…。この記事を読んでミュージアムショップの人が置いてくれないかなぁ。文中にもあるとおり、赤瀬川さんの絵についての文章はスゴい。そして伸坊さんの絵についての文章もスゴイ。1ミリでも近づきたい。どうスゴいかというと、絵を描いている人だからこそ気づく指摘がするどい。これは絵を描いている人なら誰でもできるわけではない。言葉の才能が必要だ。もちろん言葉の才能だけではできない。なぜなら言葉のプロである小説家や詩人が絵についての文章を書いても、そんなにおもしろくないから。文章の専門家は絵や画家を自分の世界に引込みすぎで、結果的に推測の域をでないことが多い。赤瀬川さんや伸坊さんはあくまで絵や画家そのものを問題にしている。問題の糸口はやはり絵を描いている人でないと見つけられない。発見がスゴくて、そこから論をおこしていくおもしろさがたまらない。あ〜、自分なんてただボーッと見てただけだなぁ、と思う。さっそく赤瀬川さんのフェルメールの本をアマゾンで「ポチッとな!」しましたよ。(サンデー毎日さん、勝手に転載してごめんなさい〜。許して〜。)

サルにも劣る

飛鳥新社からチョイと前に出た「専門家の予想はサルにも劣る」のカバーを描きました。ダン・ガードナーさんという人が書かれた本です。専門家の予想がいかに当たらないか。チンパンジーの投げるダーツより当たらないらしい。大震災と原発事故を経験した我々は、専門家の言うこともどうやらあてにならないらしい、と感じてはいるが、さて何故そんなに当たらないのか?心理的、社会的なトリックを解き明かしたのがこの本です。デザインはモリサキデザインさんです。原書ではチンパンジーの写真が表紙に使われていたので、こっちは専門家とチンパンジーのダーツ合戦にすることにしました。表1に顔を出しているチンパンジーはカバーのそでにもまわっているのですが、ダーツに苦戦する専門家を影から笑ってるような感じにしたかったんです。原画はこんなかんじ。表4は逆にチンパンジーが簡単に的に当てるのを、専門家が「どうして…?」というふうにしたかったんです。余談ですが、このあいだDVDで「猿の惑星 創世記」を見てとてもおもしろかった。見終わってしばらくは猿の真似をしていた。我が家にはチンパンジーのぬいぐるみがあり、急にそいつがかわいくなってきて、そいつでも遊びました。この本のカバーの絵はぬいぐるみを見ながら描きました。

 

 

貴重永久保存版

発売してずいぶん時間がたってしまったが、今月の「芸術新潮」は古事記特集。「貴重永久保存版」と表紙に書いてある。芸新の創刊750号記念であり、古事記が編纂されて今年で1300年でもあるという。……といった節目のこの号に古事記の場面をたくさん描いた。私の描いたコーナーは「ユルわかり古事記」という古事記のダイジェスト絵本みたいになっている。イザナキとイザナミが矛で下界をかき回して日本の国をつくっているところ。今回「古事記」をはじめて読んだが(ヤマタノオロチも因幡の白ウサギも古事記の話だったんだね…)荒唐無稽でとてもおもしろかった。でもデタラメにつくれば荒唐無稽なおもしろさになるわけではない。だいたいメチャクチャなものを作ろうと思っても、「出来の悪いフツウ」にいなってしまうのがオチだが、古事記の話はヌケがいい。うまく出来た話だと感心した。とくにいにしえの神々たちの話が痛快で、だんだん時代が下ってくると大陸からの儒教の影響があらわれ、荒唐無稽にすこし歯止めがかかるのが少し惜しい。昔の人はこれらの話を楽しんで聞いてたんだろう。僕は三浦祐之先生の口語訳で読んだのだがみなさんもよかったらどうぞ。アマテラスとスサノヲ勝ったのはどっち?暴れん坊スサノヲ英雄になる。オホクニヌシは皮をひんむかれたウサギを助ける。「鶴の恩返し」にもあるように「見ないで〜」の部屋は必ず覗かれる。神武天皇の弓にとまっているのはヤタガラスでなぜか今はサッカーの日本代表のシンボルマーク。眼の弱い御子マヨワは縁の下で遊んでいるととんでもないことを聞いてしまう。おっとなぜ、ダチョウ倶楽部のような人達がでてくるのか?古事記の絵は全部で16点くらい描いたけど、全部載せるのも面倒なのでこのへんで…。是非この際、古事記の入り口として「貴重永久保存版」の今月号をお買い求めになってはいかが?

高橋由一のおもしろさ

高橋由一展を見てきた。おなじみの愉快な静物画以外にも、いろんな絵がありおどろきだった。日本ではじめて本格的に油絵を描きはじめたという人であるが、西洋の真似をするよりも「日本人のワシが油絵を描いたらどんな絵が描けるのか試してみる!」というような心意気を全体的に感じられ、そこが高橋由ならではのおもしろさだと思う。由一の時代、ヨーロッパでは印象派がはじまっていたが、そんなことは知らないはずの由一の絵の中に印象派のような絵がある。印象派は日本の絵から非常に影響を受けたわけだが、コースは逆であるが同じようなことを由一もやっていた。この時代はそれぞれの地域の中で発達してきた絵画が国を超えて混ざりはじめた頃だった。日本と西洋をまぜこぜする実験をかたや西では印象派がかたや極東では由一がやっていた。絵画史の最先端に立っていた前衛の画家である。「近代洋画の開拓者」などという呼び方では、日本では始祖的な存在であるが、世界的に見れば後進国のリーダーのような感じでなんだかさみしい。とくにこの隅田川の夜景はこの展覧会の中でも随一の美しさで、なのに図録には小さくしか載っていなくて残念。がんばってでかい解像度でスキャンしたから是非クリックしてほしい。よかったら是非ほんものを見に行って欲しい。

江戸から明治になったとき、由一は40歳だった。つまり由一は明治人ではなく江戸人だった。さきほどの日本と西洋をまぜこぜする場合、この江戸人ということが重要なポイントである。江戸人高橋由一が油絵を描くからおもしろい絵ができあがった。次の世代になると実際に留学をしてしまうから、圧倒的に影響されちゃって、由一のようなおもしろい結果がでない。逆に西洋の古い絵の真似などをはじめてしまう。そして彼らはとてもウマい。僕は由一のちょっとヘタなところが好きだし、そこが新しさなのに。そう、時代は「絵はヘタでもいいじゃないか」というところにさしかかっていた頃でもあった。

ゴッホが広重の浮世絵の構図を取り入れようとしていた、その10年ほど前には由一もおなじような実験をしている。さきほどの雪景色の絵もそうだが手前に植物などを大きく配する絵を由一はよく描いている。由一は広重が好きだったようだ。あと、由一はゴッホと同じくミレーの絵を模写しているのもおもしろい。広重とミレー、すごい偶然、いや、優れた頭脳に立つアンテナはインターネットなど必要としないということか。下の絵は由一の模写したミレーである。おまけとして僕の「高橋由一の肖像」を載せてみる。残念ながら「お豆腐」の絵は出品されていなかった。この「高橋由一の肖像」もおさめられた画集「画家の肖像」はハモニカブックスより発売中!(結局、宣伝か!)「ハモニカブックス」はこちらどえす!

 

 

立身いたしたく候

小説現代で連載中の梶ようこさん「立身いたしたく候」の挿絵です。夜食のおにぎり食べてます。刀が刀らしく見えないって?そう、木刀です。じぶんでもそれを忘れてて、掲載誌が届いたときに、「なんて刀がヘタクソなんだ!」と情けなくなりました。そうそう木刀だったんだ。木刀としてもヘタだけど…。このお侍(主人公ではない)が、今で言う「新型うつ病」にかかってて、世間や他人にうらみを抱いているというおはなし。だからタイトルが「うらみぶし」ウマい!この侍は「矢場」で遊んでるときは生気を取り戻すという…。
西宮の苦楽園にある「ウラン堂」では6/30まで「伊野孝行 画家の肖像」やってます!(click!)