先週、長野県佐久市にある田嶋健さんのアトリエに行って来た。目的は年末にひらく個展用に、大型版画を制作するためである。田嶋さんの住んでいる付近は日本で最も海から遠い場所だそうだ。田嶋さんの運転してくれる車の中から「鯉料理」の看板が何軒か見えた。海のド近所に生まれた自分は鯉料理はフライしか口にしたことがなく、洗いや、鯉こくなどどんな味がするのか興味があったが、田嶋さん曰く「泥臭くて、まずい」そうだ。ちなみにその晩は中華料理を食べに行った。うまかった。
玄関を入るとアールブリュットの作家、佐々木卓也さんの絵が飾ってあった。今年の干支、虎の張り子とともに迎えてくれた。あるぞあるぞと、期待していたがふと目をやったこんなところにもコレクションはあった。
隙間の角度にあわせて買って来たというだけあって完全に収まっている姿が微笑ましい。
ここがアトリエ、版画のプレス機が主役である。手前の本や雑誌はさっそく私が散らかしてしまったもので、元はスッキリ片付いていた。反対側には合理的な収納スペースや版画乾かしコーナーがあったが、写真を取り忘れた。このアトリエにはロフトもあり、私はそこに泊まらせてもらった。写真がヘタで残念だ。かっこいいアトリエだったのに。そしてコレクションの数々、写真に収めて来たのでみてもらいましょう。まずは郷土玩具コレクション。



一個いっこ手に取って見たらみんなとても面白そうなのだけど、とにかく数が多すぎて手が出ない。「なんかおすすめとかある?」と聞いたらこれを出して来た。これは不思議だ。右の方は顔の裏側ではなくてこれが顔の正面なのだ。郷土玩具のくせにやすやすとアートしてしまっている。
そうそう、今回私が貢ぎ物としてもってきたガラクタはこの3つ。私はこういうものを収集しているわけではないがボロ市で箱の中から漁って来たものがこれだ。喜んでいただけただろうか?
郷土玩具だけじゃなくて絵馬もあるぞ。
そしてこれが田嶋さんの版画作品だ。かっこいい。鯉は嫌いって言ってたけどね。味と形は別だから。
田嶋さん家に着いたときからカエルのけろけろ鳴く合唱が耳にとても心地よかった。アマガエルが多いらしくて、夜になると家の明かりに集まる虫を食べるために窓ガラスにへばりついているらしい。夜になって外に出たら確かにいた。
このあと、こけしコレクション、版画制作とレポートは続くが、疲れたのでまた来週!
田嶋さんは日本一精悍な顔をしたイラストレーターである。ここをクリックしてその顔と作品を見て下さい!
もう、終わってしまいましたが、銀座のリクルートG8で毎年夏に開催されるTIS(東京イラストレーターズ・ソサエティ)の展覧会、今年は『イソップ物語』でした。展覧会は終わってしまいましたが、小学館から本になってますのでお金に余裕のある人は買って下さい。2310円。
どのお話が自分に割り当てられるかは、わかりません。僕にまわってきたのは「ノミと男」というお話でした。
しょっちゅうノミに食われている男がいました。かゆくてたまらないものですから、ノミを捕まえると、怒ってこう言いました。「まったくおまえは、許せない奴だ。ところかまわず食いついて、おれを自分の餌にしやがる」それを聞いたノミは「仕方ないじゃありませんか。私だって生きていかなければならないんです。どうか殺さないでください。もともと大それたことなどできないのですから」と命乞いをしました。すると、男は笑って「残念だが死んでもらうよ。大それたことであろうがなかろうが、害を及ぼすものは打ち払うことが肝心なんだ」
教訓>強かろうと弱かろうと、悪人に同情する必要はない。(和泉 勇 訳)
というお話でした。この内容の話を悪人とノミがしていたら。おもろいかなーと思ってご覧のように描きました。囚人です。マヌケなコンビにしてみました。牢屋の中だからノミもいるだろうし。我ながらとんちの利いた絵なのですが、こんな気持ち悪いおじさんを描いたので売れなかったんじゃないでしょうか。たぶん。きっと。
時期を違えて始まった連載が、時期を同じくして終わりました。寂しさに拍車をかけるような。でももう、ひと月以上前の話。二人展の宣伝ばかりしていて後回しになってました。
宇江佐真里さんの『通りゃんせ』は角川の「野生時代」の連載でした。主人公は現代から来た青年で、自分の着ていた迷彩服を取り出して見つめています。
新野剛志さんの『中野トリップスター』は新潮社の「波」で連載してました。中野にある旅行代理店を舞台に展開するお話です。お店の中を覗き込むのは主人公の山根です。山根はいいヤクザです。
日本の歴史上、最も暑い2010年の夏。HBギャラリーで開催された伊野孝行・丹下京子二人展『鍵』にお越し下さった皆様ありがとうございました。HBギャラリーのエアコンがポンコツで全く効いておらず、汗を拭いながらの鑑賞どうもすいませんでした。
二人でやることに意味があり、また、二人でやらなければ意味がない展示を目指して制作してきました。すくなくとも1+1が2以上にならなければ意味がありません。グループ展も5人だったら足して5以上にならなければいけないのですが、たいてい1にするのも難しい。最初は『鍵』とは違うテーマでやろうとしていたのですが、「そんなんやって何がおもろいねーん?」という親切な方からのアドバイスもあり、それをいったん白紙にして、また考えていたとき谷崎潤一郎の『鍵』を思い出したのでした。
『鍵』を思いついた時点で「これはうまくいくかも…」という気がしました。なんとなく。夫婦がつける日記を交互に読んでいく形式。男女の視点。ヒワイな話。簡単な構成の話ですが、ページ数はかなりあり、どこの場面を描くか決めるのに2ヶ月費やしました。かなりバッサリ切ったので、後は絵でなんとか補わなければいけません。丹下さんは普段とはひと味ちがった雰囲気の、とても重苦しくて陰気な絵を描いてくれました。僕の軽い水彩に対照的になるように考えてのことです。一枚描いてはスキャンして画像メールで送り合いました。コール&レスポンスも物語の流れを作っていく上で必要です。

イラストレーターの仕事は読者様に届ける絵のエンターテーナーです。いつもの仕事は編集者やデザイナーの方といっしょにやります。それに関しては不満はないですが、自分たちでゼロからはじめたらどんなものが出来るのか試せるのが展覧会です。展覧会を見に来て下さる方は奇特な方です。絵に興味をもっている人は以外に少ないのです。展覧会のたびに呼びつけられる僕の学生時代の友達は、いつもわかったようなわからんような顔をして帰っていきますが、今回はおもしろそうにしてくれた。イラストレーターの芸を示す上でも、物語の重要性を実感しました。
イラストレーションは絵の「機能」のことで、絵の「種類」ではありません。今回は『鍵』という文芸作品をテーマにしましたが「装画」でもなく「挿絵」でもないアプローチにしました。今は本の表紙を描くことが目標みたいになっている風潮がありますが、電子書籍の到来とともに、もっとイラストレーターの才能がいろんな形で機能して欲しいと願っています。(だって、仕事、ドひまやし〜)
会場の空間もふくめて味わって欲しい展示だったので、ブログ上に絵と文章を交互にのせる形でアップしてもそんなにおもしろくないかもしれません。誰か役者さんに朗読してもらってDVDにしようかな〜。テレビ紙芝居のように。僕はいい声だとよく言われますが、滑舌が悪くて声がこもって聞き取りにくいので、声優はやめときます。
ツイッターで「展覧会百年史に残る名展」とか「今年一番」とかご祝儀もこめた暖かい声援、ありがたかったです、しかし!今年の12月に僕は「リトルモア地下」で個展『画家の肖像』をやるので、まだ「今年一番」というのは早ーい!なんつって、ただ自分にプレッシャーかけてみただけです。ごめんなさい。ああ、憂鬱だ!そう、だから『鍵』を見逃した皆様、チャンスはもう一回ある、というかまたやんのか〜、と思わないで来て下さいね♡
皆様
二人展『鍵』は9/1(水)まで!つまり今日と明日で終わりです。まだの皆様にはどうしても見ていただかなくてはなりません。著作権のこともあるから、ここのブログで同じように発表できるかどうかわかりません。今の形で見ていただくには、めんどくさくても足を運んでいただく以外ないということで、まことに申し訳なく、頭を下げるよりありません。そして首を長くしてご来場お待ちしております。僕も丹下さんもずいぶん首が長くなりました。どうぞよろしくお願い申し上げます。(最終日は5時までです。お気をつけくださいませ!)
伊野拝