伊野孝行のブログ

茂田井武の怖い絵

茂田井武は僕にとって最高の画家の一人である。茂田井武のことは、気の利いたイラストレーターならもちろん知ってると思う。え?ご存知ない?今からでも遅くない。吉祥寺のトムズボックスには茂田井武の本が充実してるから、買いに行こう!ついでに僕の「ゴッホ」も置いてあるから買ってね♡

それはさておき、なんでこんなに可愛い絵が描けるんだろう、と何度もため息をつかせる茂田井武が、怖い絵も描いていたという話である。まずは絵を見てもらおう。クリックするとでかくなります。

これは僕の持っている「名作挿絵全集」の第8巻「昭和戦前・推理怪奇小説篇」に載っているものだが、最初見た時は、こんなのも描いてたんだと驚いた。そして絵がめちゃくちゃイイ!この後、茂田井武は童画に本格的に取り組みだす。その天才は時代を超えて我々を魅了してやまないが、「かわいい」の奥にはこんな「こわい」があったのだ。しっとりとした絵の肌合いがこちらの心も潤してくれる。茂田井武の絵は何度見ても、その度にヤラれたな〜と思う。こんな風に描けないなと、絶望しながらも絵が描きたくなる。だから茂田井武は最高だ!

なのに去年「ちひろ美術館」でやっていた展覧会を見逃した!馬鹿だ!

 

 

新年ご挨拶

 

 

売れた絵~銀座漫遊篇~

このブログって、基本的に自分の宣伝ばかりしてるので、嫌んなっちゃうけど、気をとりなおして今日も書こう。意外な人が買ってくれた第2弾です。今年の夏にリクルートのG8で毎年恒例のTISの展示があった。今回のテーマはG8のある場所でもある「銀座」。僕は吉行淳之介が銀座のクラブで飲んでる絵を描いた。文壇一のモテ男を、なぜか川端康成がのぞいてる、といういつものヤツである。こんな状況があったらおもしろいな、というだけのことで深い意味はありません。

いつもG8での展示は作品を販売していて、売れないと寂しく、悔しい思いをする。片一方で、160?名近い出品者のなかで目立ちたい、受けたいという気持ちもある。たくさんある作品のなかで記憶に残るのも至難の業だ。結局、今回も売れるより受けを狙ったのだが、意外なことに売れていた。はー、良かった、うれしい。ついでに誰がお買い上げになったのか事務局の人に尋ねると、有名漫画家、黒鉄ヒロシさんだというから、二度驚いた。そういえばオープニングで藤子不二雄Aさんと銀座の綺麗どころと、いっしょにいらっしゃるのをお見かけした。銀座のクラブなんて僕には全く無縁なだけに、別世界の人を見たような感じで「あー、ほら見て見て」なんてとなりの友達に話しかけたりしてたのだが…。

尾形乾山/美術手帳

今年の秋に上野の博物館で開かれた「大琳派展」に合わせた企画が「美術手帳」であった。僕は尾形乾山について執筆する依頼を受けた。他のメンバーは 本阿弥光悦 by 山口晃さん、 俵屋宗達by しりあがり寿さん、 尾形光琳by 笠井あゆみさん、 酒井抱一 by ほしよりこさん、鈴木其一 by 山村浩二さんという顔ぶれです。監修は日本美術応援団の山下裕二先生。

さあ、まずは尾形乾山について勉強しなくちゃならない。何も知らないも同然だから、書店、古書店、図書館、美術館と色々まわる。編集部にもお手伝いしてもらって、欲しい図録なども取り寄せる。「すべて、好きにしていいですよ。」と言われてるので、レイアウトを考えたり、文章は何を書くかなど、普段のイラストレーションのみの仕事ではやれないことがやれて、すごく楽しかった。乾山のことは専門家ではないので詳しく知らない。でも好きな作品がいくつもあったのでその感想を言うことにした。やはり好きになれないと書けないもんだ。僕に乾山をわりふってくれた編集部のKさんは、それもお見通しだったのだろうか。

※クリックすると大きくなります(拡大もできます)ので、文章も読めると思います。興味のある方は是非!

 

 

売れた絵~日仏親善篇~

個展をすると、がんばれよ!という意味もあるのだろう、絵を買って下さる方々がいらっしゃる。イラストレーターの仕事は絵の使用料としてギャラをもらうので、原画を売るわけではない。絵も仕事にあわせて仕上げるわけである。純粋に描きたくて描いた絵で個展をして、売れたりすると、何だか本当の絵描きさんになったようで照れくさい。

この絵は去年の個展のときに売れた。開廊時間より1時間ばかり遅れて到着すると、ギャラリーの赤池さんの様子がおかしい。「さっき外人さんが来て、この絵が売れたんですよ。」と興奮気味だった。何故かというと、その人の置いて行った名刺には、GIVENCHY(ジバンシー)の香水部門代表取締役社長と書いてあったからだ。そのJ.M氏は朝の散歩の途中にふとギャラリーに足を踏み入れたらしく、通訳が同行してたので、絵の内容も理解した上で買ってくれたという。社長室に飾ってくれてるのだろうか?香水にオナラとはシャレのわかる社長だ。フランス人のエスプリにメルシーボーク!

 

 

社長失格

光文社文庫の江上剛「社長失格」の表紙です。デザイナーの岡本健+さんから伝え聞く、担当編集者の要望はこうであった。「明るく、ポップに。だけど経済小説の重鎮である江上剛さんの重厚さも出したい…。」と。明るく、ポップと来れば軽薄であり、この要求のなかには矛盾がある。しかし、ここがプロの腕の見せ所である。人間は矛盾してるからこそ、小説も生まれるわけである。絵も矛盾を抱えた方が味わいが増すだろう。岡本さんのディレクションにも助けられて、なんとか答えられたと思う。最近気に入ってる版画でやってみた。